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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(あ)2014号 判決 1966年9月16日

主文

本件上告を棄却する。

理由

東京高等検察庁検事長松本武裕の上告趣意について。

論旨は、原判決が、刑法九六条ノ三、一項の罪の成立に必要な「公ノ入札」が行なわれたか否かの判断の基準について、「権限ある機関により入札に付すべき決定のなされることは、入札を行なうための官公署における事務上の手続としてまず第一に必要なことではあるが、それは官公署の内部における意思決定にすぎないのであって、競争入札の手続そのものだとは必ずしもまだいい難いばかりでなく、このような決定がなされたとしても、なんらかの理由でそれが実施されなければ、やはり入札は行なわれなかったというのほかないのである。」と判示したのが、所論引用の昭和三六年五月四日東京高等裁判所判例(東京高等裁判所判決時報一二巻五号五九頁)に相反するというのである。

よって案ずるに、右東京高等裁判所の判決は、所論判断基準について、「公の入札の存在するものと認め得るには国または公共団体の正当な権限を有する機関によって適法に競争入札に附すべき旨の決定のなされたことを必要とし、且つそれを以て足るものと解される」と判示しているから、原判決は、右東京高等裁判所の判例と相反する判断をしたこととなり、刑訴法四〇五条三号後段に規定する、最高裁判所の判例がない場合に控訴裁判所である高等裁判所の判例と相反する判断をしたことに当るものといわなければならない。そして、刑法九六条ノ三、一項の罪は、公の競売または入札が行なわれた際、偽計もしくは威力を用いてその公正を害すべき行為をすることによって成立するものであり、右の公の入札が行なわれたというためには、権限のある機関によって、入札に付すべき旨の決定がなされたことが必要であり、かつそれをもって足るものと解するのが相当である。けだし、公の入札は、一つの手続であって、入札に付すべき旨の決定によって手続が開始されるものであり、その決定がなされたとき以後は、いつでも偽計や威力を用いてその公正を害すべき行為をすることができるものであるからである。

しかしながら、本罪は、公務の執行を妨害する罪の一つであって、公の入札が公正に行なわれることを保護しようとするものであるから、本罪の成立に必要な入札に付すべき旨の決定は、適法なものであることを要するものといわなければならない。しかるところ、原判決は、第一審判決判示第一ないし第四、第六の(イ)および第七の事実における競争入札について、「その決定(決裁)の際当該部局の長において原判示のような手続がなされることを知っていたことが窺われることは原判決の判示するとおりであるし、むしろ一件記録に現われたところを総合すると、当該部局の長であった者自身としては極力そのことを否定はしているものの、本件の各物件売却に関し部下の吏員に対して暗に特定の業者に払下げがなされるように指示した疑いはかなり濃厚で、もしこのような指示がなされていたとすれば、実質的にみて指名競争入札に付する決定があったといえるかどうかも疑問となるし、部下の者がその趣旨に従って実際は入札手続を行なわず書類上でだけこれを仮装するということも容易に考えられるのである。それゆえ、問題はこれに引き続いて入札手続がはたして行なわれたかどうかという点にあるのであるが、本件では原判示のように入札書が関係部局に提出され、その最高額の入札書の名義人がその価格で落札した旨の開札結果調書が担当吏員によって作成され決裁を経ている事実はいずれも認められるけれども、これらの書面はあたかも真に指名競争入札が行なわれたもののように作為するだけのために作成あるいは提出されたものにすぎず、現実にはなんら入札と目すべき行為が行なわれなかった。」旨判示して、前記各事実における競争入札に付すべき旨の決定は適法になされたものとは認められないとしており、当裁判所も原判決の右判断を相当と認める。したがって、右各事実は、この点において証明がないことに帰するものといわなければならない。そうすると、これを罪とならないものとして無罪の言渡をした原判決には、前記のとおり判例違反があるが、この判例違反の事由は、刑訴法四一〇条一項但書にいう判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合に当り、原判決を破棄する事由とはならない。

その余の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、上告適法の理由に当らない。

また、記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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